Program for EU-Japanology Education and Research(PEJER)
スザンヌ・フォルマネク先生 講演会報告
 
 
    平成19(2007)年11月9日(火)、尚文館大学院会議室において「EU-日本学教育研究プログラム第2回研究会議」が開催されました。会議では、オーストリア国立科学アカデミーのアジア文化・思想史研究所研究員であるスザンヌ・フォルマネク先生に、「オーストリアにおける日本研究および教育の現状」と題し、ご講演いただきました。
 
 
 
オーストリアにおける日本研究および教育の現状
 
オーストリアにおける日本研究の160年史

 オーストリアにおける近代人文学としての日本研究は、A・フィッツマイアーによる柳亭種彦作『浮世形六枚屏風』独訳版(1847年)にはじまります。1939年には、ウィーン大学で博士号を取得した岡正男の尽力により、ウィーン大学日本学研究所が設立されました。同研究所は1945年の閉鎖を経て1965年に再興され、初期設立時に助手を務めたA・スラヴィクが主任教授に就任しました。以来、歴代主任教授の研究領域と呼応し、民族学・文化人類学・社会学といったフィールドからのアプローチを主体とする日本研究が展開されてきました。1987年にはオーストリア国立アカデミーにアジア文化・思想史研究所が設立され、宗教学と社会文化史を主軸として、当該領域のさらなる進展が図られています。これらの研究機関に加えて、オーストリアの主要大学では日本語教育プログラムが提供されています。さらには、ウィーン市内の複数の博物館において、日本関連史資料の整理・分析が進められています。


ウィーン大学日本学科における教育研究

 ウィーン大学日本学科の歴史は、1965年の博士課程設置にはじまります。1978年に修士課程、2003年には学士課程が設置されました。3年間の学士課程においては、1年次に日本語学習を集中的に実施するとともに、歴史文化や政治経済など、日本に対する基礎理解を深めます。2年次には夏期休暇期間における160時間のインターンシップを含め、実践的に日本研究の方法論を学び、3年次に2編の卒業論文を執筆します。修士課程のカリキュラムはより専門性を増し、その中には古文も含まれます。博士課程は現在3年間のプログラムですが、将来的には4年間に改変される予定です。日本学科に在籍する学生には、「エラスムス・プログラム」と呼ばれるEU間交換留学、およびウィーン大学協定に基づく日本の大学との交換留学の機会があります。卒業生の主要進路先は一般企業への就職が多数を占め、日本文化に対する理解度や日本語運用能力とは無関係の職種であっても、日本語という難解な言語を学習したという努力が、採用企業から高評価を得ているようです。
研究スタッフは恒常的に不足しており、現在は主任教授のS・リンハルト以下、準教授・助教授・助手が各1名という状況です。主な研究プロジェクトを時系列的に辿ると、1980年代には先見的な社会学研究として、日本の高齢化社会に関し、オーストリアとの比較研究が行われました。1990年代以降は、「拳(じゃんけん)」「パチンコ」「居眠り」などをキーワードに、日本人の余暇活動あるいは日本文化における遊びの概念について、社会学的・文化史的観点から理解を試みる研究成果が提出されています。今世紀に入ってからは、天保期以降に隆盛した錦絵風刺画のデータベース化が推進されており、資料学の領域においても顕著な発展を示しています。

オーストリア国立科学アカデミー アジア文化・思想史研究所

 現在、アジア文化・思想史研究所には報告者を含めて2名の研究員が在籍しています。研究所の性格は従って、研究員の個人研究領域と密接に関連しています。報告者は現在まで、日本の前近代における老年観や老人生活環境、前近代の出版文化など、主として社会文化史的なテーマを取り上げてきました。もう一人の研究員であるB・シェイドは、絵解き・遍路・他界観といった民間宗教における諸現象や、神道史といった宗教学的アプローチから、日本研究を進めています。


 
 
 
 
 
大学院教育改革支援プログラム 関西大学EU―日本学教育研究プログラム