Program for EU-Japanology Education and Research(PEJER)
前みち子先生 講演会報告
 
 
   平成19(2007)11月30日(金)、尚文館の認知発達実験室において「EU-日本学教育研究プログラム第3回研究会議」が開催されました。会議では、デュッセルドルフ大学現代日本研究科教授である前みち子先生に、「ドイツの日本研究の現状」と国際日本研究ネットワーク作りの可能性」と題し、ご講演いただきました。
 
 
 
ドイツの日本研究の現状と国際日本研究ネットワーク作りの可能性
 
ドイツ語圏の日本関連研究所

 ドイツ語圏地域における日本学関連の教育研究機関は小規模ながら数多く存在し、ドイツのベルリン自由大学、ボーフム大学、ボン大学、デュッセルドルフ大学や、ベルリン・フンボルト大学、ライプツィヒ大学のほか、オーストリアのウィーン大学やスイスのチューリッヒ大学などが主要機関として挙げられます。特にドイツ国内に焦点を当てた場合、各機関の研究重点領域は政治学、経済学、文学、言語学、思想史など多岐にわたる反面、総合的かつ学際的な教育研究体制が十分に整備されているとは言い難い状況です。研究史の観点から述べると、1980年代以降、文化学や社会科学といった近現代研究の諸分野が、それまで日本学を牽引してきた文献学に取って代わり、現在では近現代研究の比重がより高くなっています。現在の学士・修士課程が設置されたのは、今世紀に入り高等教育改革プログラム「ボローニャ・モデル」が導入されてからのことです。学習する側にとっての日本学は、日本語運用能力と日本に関する一般的な基礎知識の両立を必要とするため負担が大きいものの、広範な視野を獲得できるという大きな利点を備えているのも事実です。


デュッセルドルフ大学現代日本研究科の教育研究

 デュッセルドルフ大学現代日本研究科は1987年、修士課程の副専攻科目として設置され、1998年に主専攻科目の認可を受けました。以来、語学教育プログラムと文化学系統・社会科学系統の学際的研究体制を両立させるとともに、日欧双方の視点を交錯させる多角的な教育研究内容を構築してきました。学生数は、高等教育改革プログラム導入後に学費納入制度が採用された2004年を除いて増加を続けており、2006年冬学期現在は388名が在籍しています。学士課程においては、1・2年次に日本語と歴史・社会・文化などの基礎科目を学習し、3年次にインターンシップの参加を経て卒業論文を執筆します。大学院課程においては、高度な日本語能力を基盤とした、学際的かつ実践的な教育研究が展開されています。実践教育に大きな役割を果たしているのが大学間協定による日本への留学制度で、基礎学習終了後の早い段階で日本滞在を経験することを奨励しています。現在では慶應義塾大学など6大学と協定を締結し、年間20人以上の学生を日本へ派遣しています。

デュッセルドルフ大学現代日本研究科の研究動向にみる日本研究の現状と課題

 デュッセルドルフ大学現代日本研究科においては、文化学と社会科学の2系統から、近現代日本における社会文化の展開過程と諸問題を研究しています。また日本に対する内と外の視点を比較するとともに、両者を交えることによって、より広範な文脈に日本を位置付けることを目指しています。具体的な研究内容を紹介すると、文化学系においては報告者が近現代社会におけるトランスカルチュラリティーや、家族・母性概念の日欧文化比較などをテーマに研究を進めています。社会科学系においては、島田信悟が高齢化問題や移民社会などを中心に比較社会学の方法論による研究を展開しています。さらに、現代日本研究系においては、アネッテ・シャート=ザイフェルトが人口学やジェンダー研究(男性学研究)など現代日本社会の問題を扱っています。こうした動向から日本研究を国際的レベルにおいて展開するための課題を探ると、現代日本社会の問題に対応する課題設定とそれを実践しうる学際的方法論、日欧を軸とする多角的視点、異文化横断的な研究領域の総合的発展などが希求されているといえるでしょう。


 
 
 
 
 
大学院教育改革支援プログラム 関西大学EU―日本学教育研究プログラム