Program for EU-Japanology Education and Research(PEJER)
マンガを使った日本学教育について
 
 
 
 一月二十三日、大学院でEU―日本学の公開授業があった。発表者はベルギー、ルーヴェン・カトリック大学のネラ・ノッハさん。「マンガを使った日本学教育について」について、お話下さった。ルーヴェン・カトリック大学では現在、Let’s mangaプロジェクトが行われており、マンガが教材として使われている。彼女たちは、日本を海外に紹介するのに、マンガが最も効果的なものであると考えている。マンガは私たちにとって大変身近であり、幼少のころから親しんできたものである。しかしそれはまだ日本ではサブカルチャーとしての地位でしかなく、芸術、学問の域には到底届いていない。そんなマンガが何故、ベルギーでは学問として成り立っているのか。
 Let’s mangaプロジェクトの目的は、日本学を学んでいる学生たちだけではなく、一般人たちにも日本のことを紹介する、というものだそうだ。紹介するための最も効果的なツールとしてマンガが選ばれた理由には大きく二つある。
一つは全体的な情報を簡単に、早く、楽しくとらえることができるという点である。文章でつらつら情報を読み取るよりも、一目で絵にしてくれた方が確かに誰でもわかりやすい。二つめは内容がおもしろいという点である。人の興味をわかせるためには情報をおもしろく美しく紹介することが必要であり、そうでないと集中力も途切れてしまう、と彼女は言う。
そんな彼女たちはプロジェクトの宣伝にも力を入れている。ウェブサイトを活用し、ブログを使ってプロジェクトや、日本のマンガニュース、マンガ教育のニュースを紹介している。また、ウィキを使用し、マンガについての記事や学生が自分で書いたマンガの論文を公開している。さらにオンライン和蘭辞典をつくり、漫画の語彙リストを作成しているという。学生が漫画を読む難しい言葉を調べてウェブサイトにのせ、次の人が読むときは単語表をみて簡単に読めるようにするためのものである。
「一ページ読むのに時間がかかると誰も読まないでしょう。」
 彼女は笑顔で言う。日本学を学んでいる学生にとって漫画は大変読みにくいそうである。それは教科書の日本語とちがって特別な表現やなまりがあるからだそうだ。私たちの日常会話は確かに正式な日本語とは言いがたい。マンガを普及させるための努力と工夫も目をみはるばかりである。
 私たちは「マンガばかり読んでいたらバカになる。」と親たちから言われて続けてきたので、マンガが学問になる、という発想に正直驚きを隠せない。しかもそれが過去の巨匠と呼ばれるような大マンガ家が描いた作品がメインではなく、今現在若者たちに人気のものに目をむけているという点においても。
 さらにLet’s mangaプロジェクトでは、これからVisual language dictionaryを作る予定であるという。Visual language dictionaryとは、例えば少女マンガでは登場人物の背景に花が描かれていることが多々ある。当然、本当に背景に花が咲いているわけではない。これを私たちはごく自然にそのシーンの演出や、登場人物の心情を表しているものだと理解するが、外国人にとっては理解しがたいのだそうだ。このような感性の隔たりを埋めるために、Visual language dictionaryは必要不可欠である。作成することによって、より日本人の感性を考え、理解も深まるのではないだろうかと期待している。そして完成した暁にはそのシーンがどのように説明されているのかぜひ読んでみたいものである。
 Let’s mangaプロジェクトが秘めている可能性は多岐にわたっている。マンガを通しての日本語能力の育成はもちろん、文化理解、社会思想への理解、ひいては日本への関心であり、理解につながると私は感じている。日本を学ぶにあたっての入り口がマンガだということは、まだ日本人には受け入れがたいものかもしれない。しかし、きっかけが何であろうと他国の文化を理解しようという志は何にも代えがたいものであり、何かを学ぶにおいて、とっつきやすい入り口から入るのは学問の常套手段ともいえるのではなかろうか。今回の発表を聞き、むしろ日本人のマンガに対する見解の見直しの必要性すら感じている次第である。何といったって、遠い異国の地で同じマンガを読みながら人々が笑ったり、涙を流したり、感動を共にできるということが悪いわけがない。
Let’s mangaプロジェクト、これから大いに期待である。

 
 
 
 
 
大学院教育改革支援プログラム 関西大学EU―日本学教育研究プログラム