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1-1.ブドウの房状ポリマー(Botryosin)の合成

t-ブチルカリックス[n]アレンとジイソシアナート化合物の重付加反応では、可溶性ポリマーのみが得られることを見い出しました。そのポリマーの構造を詳細に調べてみると、ブドウの房状の形をしていることが分かりました。ブドウの房状骨格を形成しながら三次元架橋構造を回避することで、溶解性、成膜性に優れているのですね。まさに、チューブ状構造の繰り返し構造が、いとも簡単に合成できることが分かったときは、大きな感動でした。当初は、カリックスアレン骨格を主鎖に有する架橋化合物で、溶媒に不溶な化合物を合成しようとしたのですが、重合反応が終始均一系で進行すること分かったときは、頭の中は????で、信じられず、何回も実験を繰り返し、やっぱり均一系で進行することを確認したのでした。

1-2.新規レジスト材料の開発

ムーアの法則に従い、レーザーに適用可能な、フォトレジスト材料も改良されてきた。レジスト材料に求められる特性として、使用するレーザーがレジスト材料を透過することが求められ、高分子材料の構造も変化してきた。現在のレジストパターンは、ArF液侵レジストシステムを用いており、20~30nm幅のパターンの半導体集積回路(IC)が電子機器に利用されようとしている。さらに、次世代として10nm台のパターン幅のICが求められようとしている。その要望に応えるべく、電子線、極端紫外線(EUV)(λ= 13.5 nm)、X線などが新しい露光方法として検討されている。10nmのサイズになると、もはや高分子よりも小さくなってしまうので、低分子材料が検討されるようになった。ラダー型環状オリゴマーや、主鎖分解型ポリマーを基板とした次世代レジスト材料の開発を行っている。

1-3.新規エポキシ樹脂硬化反応の開発

ε-カプロラクタムとエポキシ樹脂との熱硬化反応は、定量的に進行し、高耐熱性架橋硬化化合物が得られました。この硬化反応は、ラクタムとエポキシドとの開環共重合反応が進行するためです。その開環共重合反応の反応性比を詳細に調べてみると、エポキシドが初めに単独重合で進行し、その後にラクタムの開環重合が進行します。すなわち、架橋硬化化合物の一次構造は、ブロック骨格をしていると考えられます。このブロック状の構造が、架橋硬化物の耐熱性を大きく向上させたと考えられます。

1-4.高屈折、低屈折ポリマーの合成とその機能化

屈折1.4以下の低屈折材料、屈折率1.7以上の高屈折材料の開発を検討している。ポリマーの構造と屈折率の関係を明らかにし、より低屈折率にする方法と、より高屈折率にする方法を検討している。例えば、テルル含有ポリマーは、テルルの分子屈折率が高く、1.76以上の高屈折率を示した。また、スターポリスルフィドは、直鎖状ポリマーよりも密度が高く、高屈折率を示すことを明らかにしている。

1-5.光熱変換蓄熱材料の合成

光異性化反応化合物は、光エネルギーを熱エネルギーに変換することができる。例えば、ノルボルナジエン(NBD)は光によりクワドリシクラン(QC)に原子価異性化反応をし、再びNBDへ異性化反応が進行する時に放熱を伴う。このことを利用して、ポリマーの側鎖や主鎖に光異性化化合物を導入しその光異性化反応と蓄熱量について検討している。

1-6.屈折率変換材料の合成

光ファイバーなどの光通信技術は発達し、光信号により大容量の情報を高速に伝達することが可能になった。しかしながら、光信号は、電気信号に変換される必要があり、伝送容量および速度に限界が生じる。そこで、光信号を振り分ける技術、光スイッチング材料の開発が将来的に求められている。そこで、化学反応により屈折率が変化する材料の開発を検討している。屈折率を変化させることで、光路を変化させることが可能となり、光スイッチング材料として応用可能となる。具体的には、光異性化反応前後の化合物の屈折率は異なることから、これらの官能基を導入したポリマーは、書き込み可能な記憶材料や光デバイス材料としての展開が期待される。最近の我々の研究では、光異性化反応前後の屈折率変化が非常に大きな値を示すポリマーの合成に成功している(0.1以上、現在のところ世界一です)。

1-7.環状ポリマーの合成

選択的に環状化合物を合成することは困難であるが、低分子反応で確立した付加反応を、環状化合物に展開することで、分子量が制御された環状ポリマーの合成に応用展開した。その重合挙動を詳細に検討したところ、非常に大きな分子量(20万以上)の環状ポリマーが得られることが判明した。全く独自の環拡大重合法による、新規環状高分子の合成法について確立した。また、環状高分子の機能化についても検討している。

1-8.動的共有結合化学を利用したラダー型環状化合物類の合成

レゾルシノール類とビスアルデヒド類の縮合反応を、その反応温度をコントロールすることで、ラダー骨格を有する環状化合物が合成できることを見出した。その、合成方法の確立と得られた特異構造物の機能性について検討している。さらに、新規レジスト材料への応用展開が可能であることを明らかとしている。

1-9.機能性ハイパーブランチポリマーの合成

末端、或いは側鎖に水酸基を有するハイパーブランチポリマーを重付加反応により合成し、得られたポリマーの水酸基をラジカル重合性基やカチオン重合性基に変換する。ポリマーの製膜性や耐熱性、分子量をコントロールしたハイパーブランチポリマーが容易に合成できる方法を見出している。スピンコート法を用いて、光酸発生剤や光ラジカル発生剤を触媒量添加したポリマー薄膜を調整し、UV照射と同時にIR測定を行いポリマーの光反応性を評価している。